弁護士コラム

2024/3

簡易裁判所の過失割合の判断

阿部 泰典

 ある交通事故の事件です。
 私の依頼者の方はバイクで、相手方はトラックで、トラックは路外からの右折進入で、バイクは、片側一車線の道路(トラックが出てくる側)を直進しており、トラックとバイクが衝突しました。トラックは動き出す前に頭を道路に出して待機していました。待機の状態で依頼者の方の前にバイクが1台、トラックの前を通過し、依頼者の方は前のバイクがトラックの前を通過したのに続いて、自分も通過しようとしました。ところが、トラックが動き出したため、クラクションを鳴らしたり、急ブレーキをかけたりしましたが、衝突してしまいました。幸い、衝突した時点ではバイクの速度もかなり落ちていたため、依頼者の方の怪我は軽傷で済みました。
 簡易裁判所では、判決になり、過失割合の判断は、当方が8割:相手方が2割でした。判決になる前に裁判所から同じような内容の和解案が出されたため、私は、裁判所の和解案に対する反論書を作成して提出しましたが、判決で裁判所の判断が変わることはありませんでした。
 道路交通法には、車両は、他の車両の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の場所に出入りするための右折をしてはならないと明確に規定されています(25条の2第1項)。そのため、簡易裁判所の判断には到底納得できませんので、地方裁判所に控訴しました。
 地方裁判所での第1回目の裁判期日において、裁判所から、過失割合について当方35:相手方65との和解案が示されました。
 裁判所や弁護士が過失割合について検討する際に参照する別冊判例タイムズ38号という文献があるのですが、交通事故の事故類型に応じた過失割合が記載されています。同文献によれば、本件の類型では、基本割合が10:90で、トラックの頭出し待機で10%修正により、当方20:相手方80となりますので、35:65は必ずしも納得できるものではないのですが、20:80となると、簡易裁判所の判断と完全に真逆になるので、地方裁判所も簡易裁判所に恥をかかせてはいけないという思いがあるのかもしれません。簡易裁判所の判断からすれば、真逆に近くなり、依頼者の方も納得されたので、過失割合について35:65で和解することになりました。
 本件は、比較的典型的な事故類型と考えられます。あまり例のない非典型的な事故態様であればともかく、典型的な事故態様の判断でも疑問の大きい判断がなされてしまうのは困りますね。

 私の個人的な経験からすると、ここまで極端ではないにしても、簡易裁判所の過失割合の判断は、地方裁判所で見直されるケースが少なくないと思われます。

この弁護士のコラム一覧