弁護士コラム

2021/10

想像力

室之園 大介

 弁護士の代表的な業務の一つである刑事弁護は,犯罪を行ったと捜査機関(警察・検察)から疑われて逮捕・勾留されている被疑者や,検察官から起訴されて裁判にかけられている被告人の弁護活動を行うものですが,大部分の刑事事件は,犯罪を行ったことを被疑者・被告人が自ら認めているいわゆる自白事件であり,私が普段担当する事件もその多くが自白事件です。

犯罪を行ったことを否定している否認事件であれば,被疑者・被告人が無罪であることを主張・立証することが弁護士の仕事になりますが,では,犯罪を行ったことに争いのない自白事件で弁護士が何をするのかといえば,被害者と示談交渉したり,被疑者・被告人にとって有利な事情を主張・立証したりして,被疑者・被告人への処分・処罰が軽くなるように(あるいは不当に重くならないように)活動することになります。

 そのような自白事件において,弁護士の重要な役割の一つが,被疑者・被告人に反省を促すことです。なぜ反省を促すのかといえば,その理由は一つではありませんが,再び犯罪が行われることを防ぐためです。
ですが,これが難しい(笑)。こちらが何も言わなくても深く心から反省なさっている方も勿論いらっしゃいますが,それとは真逆で全く反省した様子のない方も大勢いらっしゃいます。そのような方々に反省を促すというのは,簡単なことではありません。

 そもそも,人はなぜ罪を犯すのか?私はもともと,「人は誰でも過ちを犯すもの」くらいに考えていて,なぜ罪を犯すのかとそこまで深く考えたことがありませんでした。ですが,ある時,ある弁護士から,「想像しないから罪を犯せるんだ」という話を聞いて,なるほどと思いました。その弁護士が言うには,例えば,もし自分の大切な家族が同じ被害にあったらどう思うか,どう感じるか,それを想像すれば,故意に罪を犯すのはかえって難しい,そういうことを想像しないから罪を犯せるんだ,というのです。その弁護士は,被疑者・被告人に反省を促す際には,まずその人が何を大切にしているのかを探り,それを糸口にして「想像」するよう働きかけるそうです。そうすると,それまでとは別人のように自分の行為を悔いることも珍しくないそうです。その話を聞いて,私も自分なりに実践してみましたが,中には涙を流して悔いる方もいらっしゃいました。

 我が身を顧みれば,恥ずかしながら私自身も想像が足りないと思い当たることが多々あります。被疑者・被告人の方々と向き合いつつ,また自分が関わる全ての方々と接する中で,自分自身も想像する力を磨いていきたいと思います。

この弁護士のコラム一覧