弁護士コラム

2021/06

「接続詞」の重要性

前田 八郎

 弁護士の仕事の1つとして「書面の作成」があります。
 一例を挙げると,(1)契約書,(2)手続上の書面,(3)裁判手続において提出する訴状・答弁書・準備書面などの主張書面,その他交渉相手に送付する通知書などがあります。
 このうち,(1)契約書,(2)手続上の書面は,ある程度定型の文案がありますので,それらを利用します。その趣旨は,関係当事者において効率的に共通認識を得ることにあります。例えば,(1)契約書において,定型から大きく外れた場合,相手方(読み手)の予想を外すことになるため,解釈の相違が生じるおそれがあります。また,(2)手続上の書面において定型から大きく外れると処理ミスや作業効率の低下を生じさせるおそれがあります。したがって,これらの書面においては,余計なオリジナリティを出さずに可能な範囲で定型に沿った方が目的を達成できることになります。定型を用いることは決して手抜きではありません。
 他方で,主張書面,通知書など相手方にこちらの考え(主張)を伝える文書においては,多くの場合記載内容に定型がありません。したがって,どの様な文書にするかは弁護士の技量に掛かってきます。
 この点,当職が主張書面などを作成する際に気をつけていることの1つとして「できる限りシンプルな文章にすること」があります。
 具体的には,読み手が理解し易いように,一文をできる限り短くすることを心掛けています。いわゆる「5W1H(いつ,どこで,誰が,何を,なぜ,どうした)」を意識して,なるべく短い文章にします。短い文章により,読み手に誤解を与えるリスクも回避できます。
 そして,短い文章を作成するうえでのポイントの1つが「主語を意識すること」です。例えば,「誰が」を決めると「何をした(どうした)。」が決まります。その後で「いつ」「どこで」などの補足説明を加えて文章を構成していきます。この様に主語を意識して文章を書き始めると,その後の文章がスムーズに作成できます。そのため,当職は,文章の作成に行き詰ったときは主語を意識するようにしています。
 また,読み手の理解を助けるために,「主語を省略しないこと」も重要です。主語を明確にした文章の方が,読み手が文章の先を予測しやすくなり,結果的にこちら側の意図が相手方に伝わり易くなります。
 ところで,一文を短くした場合に重要になるのが「接続詞」になります。
 なぜならば,一文を短くすると,どうしても文章と文章のつなぎ目が多くなりますので,かかるつなぎ目に接続詞を入れるか否か,入れる場合にはどの様な接続詞を入れるかを検討する必要が生じるからです。
 そして,接続詞がうまく機能していない文章だと,如何に正しい内容の文書であっても説得力を欠く印象になります。また,文章の流れが悪くなり,読み手の理解を妨げます。したがって,「接続詞」次第で文書の善し悪しが決まるといっても過言でありません。
 この様に,短い文章を積み上げて文書を作成しようとする場合,各文章間の流れを作る「接続詞」が不可欠であり,とても重要になります。
 自分が書いた文書を読み直すと,特定の接続詞が乱用されていることがあります。伝わる文章,読ませる文章を作成することが如何に難しいかを痛感する瞬間です。
 調べてみると日本語にはとても多くの接続詞があります。この機会に一度,接続詞について調べてみてはいかがでしょうか。

 当職は,日ごろから,弁護士が作成する文書は意思伝達のための道具に過ぎない,そのため文学作品の様に行間を読ませるような表現は不要,むしろ読み手毎に解釈が異ならない様な文書を書くべきと考えています。
 しかしながら,誤解を与えない文書と読ませる文書は両立します。こちら側の意思を伝える道具だからこそ,読み手に読んでもらう必要があります。
 弁護士になり13年が経とうとしていますが,伝わる文章,読ませる文章の書き手になるには,まだまだ時間が掛かりそうです。
 もしも本コラムを読んで頂いた方の中で,文書の作成が苦手だと考えていらっしゃる方がいれば,まずは接続詞に注意して文章を作成してみてください。少しは苦手が克服できるかもしれませんので。

以上

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