弁護士コラム

2020/05

久しぶりの裁判員裁判

原田 雅紀

令和2年4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を原因とする緊急事態宣言が出されました。
その結果、裁判所の審理がほぼ全て停止し、5月末日までに予定されていたほぼ全ての裁判期日が延期になってしまいました。
ただし、私が担当している事件の中で、たった1件、裁判所での手続が停止しなかった事件があります。
裁判員裁判で審理が行われる刑事事件です。

平成21年5月から開始された裁判員裁判は、殺人、強盗致死傷、現住建造物等放火などの一定の重大犯罪に限って、国民の皆さんが刑事裁判に参加し、被告人が有罪かどうか、有罪の場合どのような刑にするのかを裁判官と一緒に決める制度で、原則として裁判員6人と裁判官3人が一緒に刑事裁判の審理に出席して、証拠調べ手続や弁論手続に立ち会った上で、評議を行い、判決を宣告します。

現在、私は、裁判員裁判で審理される刑事事件を引き受けており、当事務所の福下弁護士と一緒に弁護人として事件処理にあたっています。

この裁判員裁判になる刑事事件の今後の進行等を協議するための期日が、緊急事態宣言下ではありましたが、裁判官、検察官及び弁護人が裁判所に集まって(ただし「密」にはならないように。)実施されていたのです。

なぜ、この事件の手続は緊急事態宣言下であっても停止しなかったのでしょうか?

憲法上、被告人には公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利が保障されています。
ただし、裁判員裁判は、審理を円滑に進めるため、裁判員裁判ではない刑事裁判と比較してより多くの事前準備や手続が必要になることから、結果的に、被告人が起訴されてから判決が出るまでの期間が長期に及んでしまうことが通常です。
それにもかかわらず、緊急事態宣言を理由として進行等を協議する期日まで中止してしまうと、審理がより長期化してしまい(それに伴い、被告人の身柄拘束も長期化してしまいます。)、迅速に裁判を受ける権利を侵害してしまいます。
このような事態を避けるため、打ち合わせのための期日は延期されることなく、実施されていたのだと考えられます。

久しぶりの裁判員裁判。
被告人にとって適正な判決が得られるように準備を進めて行きたいと思います。

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