弁護士コラム

2016/02

相続の基礎知識①
遺産分割と生命保険金

浦田 修志

 人が亡くなると相続が開始します。相続とは、亡くなった人(被相続人)の権利義務を承継することを言います。被相続人に財産がある場合、相続人はそれをどのような分け方で承継するか話し合いをする必要があります。これを遺産分割協議と言います。話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所で調停をし、それでもまとまらない場合、裁判官が審判でどのように分けるかを決めます。遺産分割は概ね以下の手順で進めます。

 まず、相続人が誰か確認します(①相続人の確定)。被相続人に子どもがなく、相続人となる兄弟姉妹が先に亡くなっていて、その子どもがたくさんいるような場合、相続人を確定させるだけでも時間がかかることがあります。次に、どのような遺産があるかを確認します(②遺産の範囲の確定)。そして、それぞれの遺産がどのくらいの金銭的価値があるか評価します(③遺産の評価)。評価が定まったら、法定相続分をベースに、どのように分けるかを決めますが、たとえば、相続人の一人が多額の生前贈与を受けていたり(④特別受益)、家業に専従するなどして被相続人の財産の維持・増大に特別の貢献をしていたり(⑤寄与分)した場合、法定相続分で分けると不公平になることがあるので、これらを考慮して分ける割合を算定し(⑥具体的相続分の算定)、最終的な分け方を定めます。

 遺産分割は、それぞれのプロセスで紛争が生じ、解決まで長引くことが多い事件です。今回は、②と④のプロセスの関係で、生命保険金の問題を紹介します。
ここで問題とする生命保険は、被相続人が保険契約者で、自分を被保険者とし、相続人のうちの誰かを受取人(通常は妻が多いでしょうか)に指定する場合です。この場合、受取人に指定された相続人は自分の固有の権利として保険金を受け取りますので、保険金は遺産には含まれず、遺産分割の対象になりません。

 それでは、生命保険金は遺産分割にあたって一切考慮されないのかというと、そうではありません。

 例外的に、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不公平が…到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」(最高裁平成16年10月29日判決)には、特別受益に準じて、遺産分割にあたって考慮されることがあります。「特段の事情」があるかどうかは、保険金の額、保険金額の遺産総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断するとされています。

 この中でも、特に、保険金の額と、保険金額の遺産総額に対する比率が基本的な基準になると思われます。裁判例を見ると、この比率が6%程度の事案では考慮されなかったのに対し、この比率が60%を超えた事案では考慮されています。私が実際に担当した案件でも、この比率が70%を超えた事案で、「特段の事情」があるとして考慮されたことがあります。

 ざっくりした例で説明しますと、たとえば、相続人が妻と子ども2人で、遺産が5000万円あり、それ以外に妻が3000万円の生命保険金を受け取っていた場合、もし生命保険金を考慮しないと、現存する遺産は5000万円なので、法定相続分で分けると、妻2500万円、子どもは1250万円ずつになります。これに対し、生命保険金を特別受益に準じて考慮すると、遺産を5000万円+3000万円=8000万円とみなし、法定相続分で分けると、妻4000万円、子どもは2000万円ずつになりますが、妻はこのうち3000万円を先にもらっていることになるので、現存する遺産5000万円は妻1000万円、子どもは2000万円ずつ分けることになります。

 生命保険金は高額なことも多く、遺産分割にあたって考慮されるかどうかで具体的な相続分に大きな影響を与えることがありますので、注意が必要です。

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